20/09/2004
To Osaka
ほんとは、昨日の晩で、彼らとはお別れの筈だった。そういうつもりでいたのだけれど、ライブ後の打ち上げで、面々が、「キョーコは大阪や名古屋にはついて来ないのか」と半分本気で惜しがってくれたのと、彼らのステージにすっかり「ひれ伏して」しまっていたのとで、せめてお見送りをしたいな、とほとんど追っかけファンの心境になっていたわたしは、翌朝東京駅にいた。新幹線の改札口で、目ざとくわたしを見つけたハンスフォードが、いきなり「キョーコ、ついてくる気になったのか?それともただの見送りか??」と言う。「残念だけど、ただの見送りだよ」と言うと、「なんだよぉー」と、がっかりしてみせる。他の3人もなぁんだという表情をする。「行けたらよかったんだけどね」と言ったら、「そっか、しょうがないなぁ」とハンスフォードが肩を竦めた。
それにしても、感動的なぐらいコンパクトな荷物。
汗だくになっているぼんが、気の毒だったので、今度はもっといい季節に来てねと言ったら、いったいいつがいいの? と言う。まぁだいたい、湿気が多いから、6月から9月は避けたほうがいいかもね、それから、冬も気温はそんなに下がらないけど、湿気のおかげでぼんの住んでいるニュージャージよりきっと寒く感じるよ、と答えた。しかしそうやって考えてみると、彼らにとってのベストシーズンって、少ないかも。でもまぁ、蒸し暑いのはオレのところだって6月ごろはこんな陽気だからね、と葉巻をくゆらしながらぼんが答える。

今度はいつ来る? とわたし。
うーん、なるべく早く来たいね。アルバム作ったりいろいろ予定があるけど、できるだけ早く来たいね。 とぼん。

新幹線のホームに着いて、売店へ入り、飲み物などを買っている。異様なのはブノアで、マレットがきゅうきゅうこぼれそうに詰め込まれたバッグを斜めがけにして、にかにかしながら売店に入っていき、いろいろ嬉しそうに物色したあと、他のメンバーが殆ど飲み物だけだというのにサンドイッチを購入し、売店を出たところでしゃがみこんでむしゃむしゃと食べ始めた。そのヤンキー座りのまま私を見上げ、にかっと笑い「Twice!」という。2回目の朝ゴハンだということらしい。
あとで仏語通訳の人に訊いたら、前日打ち上げのあと、そのまま歌舞伎町方面へ消えていったブノア、通訳さんを引き連れて、結局朝の5時ごろまで飲み歩いていたそうな。「アメリカ人たちは、なんで遊ばないんだろう、せっかく来てるのに。オレは遊ぶぞー」と気焔盛んだったという。怪人ブノア 新宿の夜を満喫していたらしい。
新幹線の座席に窮屈そうに収まった彼らに手を振る。
怪人ブノアが車内販売のアルコールに手を出さなきゃいいがと、ちょっと余計なことを考えながら彼らを見送る。いくらなんでもブノアだって、ステージまではアルコール抜きだろうと思うけどね。でも確か新幹線の中は禁煙だったはず。ぼんはともかく、ブノアにとってはしんどい道中かもしれない。新幹線が滑り出していき、にこにこ手を振るゴングジラの4人を大阪へ運んでいった。


その夜。もう日付も変わろうという頃に、携帯電話が鳴った。出るとハンスフォードの声が流れてきた。
「今夜のショウは良かったぜ」
「ほんと?うわー、行きたかったなぁ」
代わる代わるメンバーが出てきて、大阪のライブの様子を伝えてくれる。物静かなぼんまでもが雄弁だった。
ぼんはジミーヘンドリックスを歌っちゃったぁ、ははは
と言っていた。彼の声はシブいから、かっこよかったろうね。サムはキョーコのマッサージが必要だよー、背中が痛いよーと騒ぎながらも、今夜のライブ、最高だったぜ!と満足げに言う。最後に代わったのはブノア。
「えへへへへぇーあろー?」
あ、もう酔っ払ってる。
「いいショウだったんだって?」
「いえーす、ぐれいとぉー えへへへへぇ」
「楽しかった?」
「いえーす、たのしかったよぉ〜」
「楽器はどうだった?いいマリンバだった?」
素面のときに、彼はそれを一番心配していたからだ。
「ん〜? うん いえーす」
こっからさきは、もうこっちのいうことも、ブノアのいうこともわけがわからなくなって、コミュニケーション不成立。ハンスフォードに代わってもらって、おやすみー明日もがんばってねー、と言って切った。